Fragile~思い出に変わるまで〜
「お帰り、ご飯食べるでしょ?

今……温め直すね?」


ぎこちない笑顔を浮かべながら、何にもなかったように俺に声をかけて、彼女は食事の支度を始めた。


俺は返事もろくに出来ずに、のろのろとダイニングテーブルの席についてさとみの様子を窺った。


さっき食べそびれた俺の好物を次々にテーブルに並べて、彼女も席につく。


いただきますと言って食べ始めたさとみを見て、俺も慌てて箸に手をつけた。


食事のあいだずっと重苦しい空気が流れて、好物ばかりのはずなのに、食事が喉を通らない。


それでも残すわけにはいかないと、必死で咀嚼を繰り返した。


さとみも俺の顔を見ることなく、黙々と食事を続けていたけれど、藤森について何か聞いてくることもなかった。


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