Fragile~思い出に変わるまで〜
ちゃんと覚えててくれてたんだな……


そんなちょっとしたことが、今は嬉しかった。


「美味しいよ、ありがとう」


目の前に座る藤森を見つめて、俺はそう言った。


彼女が嬉しそうに微笑むのを見て、なんだか複雑な気持ちになる。


さとみに、こんな風に礼を言ったことがあっただろうか?


当たり前すぎて、わからなかった。


彼女はいつも俺の好物を作ってくれていたんだってことを……



「たけるぅ!ねぇねぇ、ごはんおわったら、こうえんいこ?」


ひなが隣で、キラキラした目をしながらそうねだってくる。


頭を撫でながら、いいよと頷くと、ひなはやったというように両手を上げて万歳をして喜んだ。


これでいいんだ……


何も考えなくていい……


俺は食べ終わった食器をキッチンに運ぶと、ひなと一緒に公園に行く準備をした。
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