Fragile~思い出に変わるまで〜
「さとみさんが……そう言ったんですか?

結婚したって……」


いつもとは違う静かな口調は、明らかに怒っている。


俺は少しだけ動揺しながらさとみとの会話を思い出した。


確かに結婚したとは言ってなかった。


でも、子供がいるってことは旦那だっているはずだろ?


「いや……そうは言ってなかったけど……

子供がいるんだし、さとみだって今幸せだって言ってたし……」


だんだん自信を無くして声が小さくなっていく俺の横で、桜井はしばらく何かを考えるようにじっとフロントガラスを見つめて運転している。


何も言わずに黙ったままの桜井に、気まずくなって声をかけようとしたそのとき――


桜井がおもむろに口を開いた。


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