Fragile~思い出に変わるまで〜
木目を基調とする落ち着いた雰囲気の和室に俺は座っていた。
さとみに自分の気持ちを伝えるために選んだのは、少し品のいい静かな懐石料理の店だった。
ここは、まださとみと結婚生活をしていた頃、彼女が気に入って記念日には必ず予約していた店でもある。
彼女との懐かしい思い出の場所で自分の気持ちを伝えよう。
そう決めて自ら予約をして、さとみを呼び出したのだ。
一人、この個室の座敷に座り、さとみを待っていると、本当に来てくれるのかどうかさえ疑わしく思えてくる。
だんだん弱気になる自分を叱咤しながら、先ほど店員の人が出してくれたお茶を飲んで一息ついた。
チラッと時計を見ると、すでに約束の時間を10分過ぎている。
何か……あったんだろうか?
さとみは時間にはうるさい性分だ。
遅刻など滅多にしないやつだったのに……と急に心配になる。