Fragile~思い出に変わるまで〜
相変わらずだなと苦笑していると、おずおずと俺の対面の席に腰を下ろした。


お互いが何から話していいのかわからず、しばらく顔を見合わせたまま様子を窺う。


いい加減この沈黙に耐えられなくなり自分から口を開こうとした時、外から声がして障子がスッと開いた。


「お料理をお持ちいたしました」


和服姿で物腰の柔らかな店員は、前菜と食前酒をテーブルに並べると、料理の説明をしてから、「ごゆっくり」と挨拶をして出ていく。


目の前の料理に表情を和らげたさとみが、嬉しそうに口を開いた。


「なんか久しぶりだね?このお店

うわぁ、美味しそう!」


そんなさとみを見ていると、この店を選んで良かったと嬉しくなった。


食前酒の梅ワインのグラスをどちらからともなく重ねて「乾杯」と小さく言うと、さとみが少し照れ臭そうな顔をする。


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