Fragile~思い出に変わるまで〜
俺は咄嗟に顔を上げて、さとみの顔を見た。


そこには涙でぐしゃぐしゃになったさとみが、ハンカチで拭いながら、俺を見て何か言おうとしている。


でもしゃくりあげて言葉にならないでいた。


なんて声をかけていいのかわからずに、しばらく彼女を見守っていると、さとみが必死に口を開いた。


「ありがと……

健の……気持ち……

すごく……嬉しかった」


そこでもう一度鼻をすすりながら涙を拭うと、俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。


「プロポーズ……お受けします」


腫れた瞼に真っ赤な鼻をしたさとみが、一生懸命笑顔を作ってそう言ってくれた。


俺は信じられない思いで彼女を見つめながら、声を詰まらせる。


「……ありがとう」


そう一言だけ伝えると、あとはもう言葉にならなかった。


< 555 / 589 >

この作品をシェア

pagetop