Fragile~思い出に変わるまで〜
桜井は、なぜかさとみを気に入っていた。


一度、さとみが会社に忘れ物を届けに来たとき、少し挨拶をした程度しか知らないはずなのに。


「何、ばかなこと言ってんだよ?
そんなんじゃないって」


そう、断じて浮気なんかじゃない。


俺はただ、藤森の相談に乗るだけだ。


だから堂々と否定した。


「あんな可愛い奥さん泣かせたら、許さないですからね?」


桜井は笑っているけれど、目は本気だ。


「心配してくれるのはありがたいけど、浮気とかそういうんじゃないから」


少し語気を強めてそう言うと、桜井は渋々納得したように、帰り支度を始めた。


「じゃあ、俺先に帰るから、戸締まりよろしくな?」


背中ごしに手をヒラヒラ振りながら、俺は桜井より一足先にオフィスを出た。


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