Fragile~思い出に変わるまで〜
「……」


「……」


先に口を開いたのは藤森だった。


「健、一度だけでいいの
会うだけで向こうは納得すると思うから」


藤森はまだあきらめていないらしい。


「うまくいくとは思えないよ」


頭を左右に振りながら、俺はそう答えた。


藤森はガッカリしたように下を向く。


俺は申し訳ないと思いながらも、元旦那にバレるかもしれないリスクや、さとみにまで迷惑がかかるんじゃないかという思いが、引き受けることを躊躇させていた。




藤森の家の近くにタクシーを止めて、自分も一緒に降りた。


このまま帰すのも心配だったし、最後にきちんと話をしとこうと思ったからだ。


タクシー料金を払い、車が行ってしまうのを見送ってから、藤森に向き直る。


――ちっちゃいな……さとみと同じくらいかな?


< 86 / 589 >

この作品をシェア

pagetop