彼女が変身した事情
「………うめぇな。優の料理、全部旨い」



ほんとは食欲なんか無いけど…。旨いから少しは食える。コイツが夜通し看病してくれたのわかるから。無理してでも食う。



「うっ………」



まだ本調子じゃないから胃があんま受けつけない。



「無理しないでください」




背中をさすってくれる小さい手。顔は無表情。さすがに迷惑か……。



「悪りぃな。迷惑かけて……帰るわ」


ベッドから立ち上がろうとした途端、足下がふらつく。


「だから。まだ熱あるんですって。無理しないで休んでくださ……」


俺の身体を支えようとするけど支えきれてねぇ。もつれて一緒にベッドに倒れ込む。
うっかり組み敷く体勢で倒れてしまった。小さい細い身体。赤ん坊みたいな優しい良い匂いがする-…。



「ごめん。痛かった?」


体の下には仰向けになった優。赤くなるでも無く、動揺するでもなく相変わらず無表情のまんま。
倒れた勢いで眼鏡が外れて………あの瞳でじっと見つめられる。



-ドキン-




昨日のシーンが脳裏に蘇る。初めて身体が本能で欲しがった。今ならそれが叶うのに。
普段なら雰囲気で抱く事なんか簡単な筈なのに…。


ハッとして慌てて身体を起こす。急だったから、思わず痛めてる右手を支えにしてしまった。


「つっ………」



何慌ててんだろ…。カッコわりぃ。

手を押さえて痛みが去るのをじっと待つ。そろそろギプス取れると思うんだけど、痛みはまだ残ってんのな…。


「別に迷惑じゃないですから……」



むくりと起き上がり、手探りで眼鏡を探し当てる。



「治るまで居てください。だいたい、一緒に居てと言ったのはあなたでしょう?」
「は?いつそんなこと…」


ぐいぐい押されて布団に押し込まれる。全然覚えがねぇ―……。


「確かに言いましたよ。悪い冗談と一緒に……」
「冗談?」
「覚えがないことをあえて思い出す必要はないです」



超真顔………。



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