彼女が変身した事情
校庭脇に桜並木が並んでる。うちの学校の名物。まぁ綺麗ではあるけど別に興味はない。


「おい、良介」
「あ~?」



真崎が指差す方を見る。



ここから十数メートル先、グラウンド脇の一際大きな桜の下。ぼーっと桜を見上げる女の子が一人。真新しい制服、でも親の姿がないところを見ると1人で来たのか……。



「見ろよ。あいつヤバいくらいだっせくね?」


わざとらしい大きい声で真崎が笑う。こいつ、可愛くない女の子にはめっちゃ厳しい。ブスは人間として認めないって豪語してたけど、俺から言わせてもらえばそういう考え方の真崎のがどうかしてると思うけど。



まぁ確かに、おでこ全開にして後ろ一本に縛ってるところといい、分厚い眼鏡といい、体より大きなブカブカの制服といい……イケてるとはいいがたいけど。



時折ザーッと強く吹き付ける追い風にも動じず、乱れる髪にも構わずただ夢中で桜を見上げる女の子。




段々距離が縮まる(俺らの進行方向にいるからね)のにわざとらしい真崎の言葉攻撃は止まらない。


「うっわ、超ブス」
「…………」
「良介もそう思わね?」



俺に振んなよ。そんなどうでもいい事………。それよりあそこ危なくねーか。グラウンドで野球部がバッティング練習してんのにフェンスの内側にいたら……。



-キ―――ン!!-




心配が的中。打ち損ねた球が一直線に女の子の後頭部目掛けて飛んで来る。



「やべぇ!!」
「あ、おい良……」



反射的に肩にかけてた鞄を放り投げて走り出す。距離的に8メートル弱、暫く走ってないから追いつくか!?

自分の方に向かって走って来る気配に気付いてか女の子はこっちに顔を向ける。



ギリギリ間に合ったけど避けてる余裕がない。


「チッ………」



頭が考える間もなく身体が動いてしまった。反射的に左手で女の子を胸に抱き、ボールが来る方向に背を向ける。



-バシィっ!!ー



「痛っ……」


ボールは右手手首にジャストヒット。骨に当たった為、激痛と痺れが全身に走る。



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