彼女が変身した事情
「俺、今日はこれで失礼します。あ、優は連れて行くので」



軽く会釈する。親父が顔を寄せて来る。



「優ちゃん。あの娘……磨けば光るぞ」



さすが女好き。わかってんのか………。







-コンコン……-




化粧室の戸を叩く。中にまだ居るのは確認済み。ぬかりなく。



「優?居るんだろ?」



中でガタリと音がする。気付いたか。



「出て来い?」




-ガチャッ-




ドアの隙間から少しだけ顔を出す。



「常磐さん……なぜここに?」



びっくりしてるはずなのに無表情。



「いいから、ほら」




戸の外に引っ張り出す。初めて見る私服。白いアンサンブルに紺のスカート。服装は悪くないんだけど……一本結びにでかい分厚い眼鏡・・・おばさんに見える。



「今から遊び行こうか」
「えっ、でも父が……」
「いいから♪」




明らかに迷ってる風なのに表情ないんだよな………。



「行こ」



優の手を取って強引に歩き出す。チラッと親父共の方に視線を向けると、笑顔で手を振っている。
どうやら了解済みだとわかると素直について来る。





エレベーターの中。


「私……今日お見合いだったんです」


ぽつりと優がつぶやく。


「へぇ…………」
「相手の方がどういう人かも分からないんですけど、きっと嫌がられると思うので」
「なんで?」
「私、見た目の通り陰気だし、地味だし」
「それで?」
「私がもっと常磐さんの周りの人達みたいに綺麗だったり、可愛らしいんだったら良かったんですけど。相手の方が気の毒なので………」
「……………」
「ごめんなさい、喋り過ぎました」



そんな悲観的な事、そんな真顔でいうなよ。実はすげぇいい奴だって俺は知ってる。



「優?……優は可愛いよ。ほら」



髪を解き、眼鏡を外す。あの瞳、長い睫毛。可愛い過ぎてドキドキする――………。



「また。冗談はやめて下さい」
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