彼女が変身した事情
歩いてる間も終始無言。

-会話がねぇ!-



「………なんでそんな離れんの?」
「一緒に歩いてると思われるのが嫌だからです」



絶対隣りを歩きたがらない。なんでだよ。それじゃ俺が困まるんだけど………。



「お兄さん1人~?」


-きた……-



夜の仕事してますみたいなケバい姉ちゃん。いつもの逆ナン……。こういうのがめんどうだから一人で歩いてたくない。



「悪りぃけど連れがいるんだ」
「え~どこに?いないじゃん」



振り返るといない。逃げたな。



見渡すと3メートル後方の街路樹の後ろ……スカート見えてんだよ。



「あれ。だからバイバイ」
「え~。いいじゃん」




「こら」



やっぱり。木の影でピシッと直立。



「バレてんだよ。諦めろ。大体うちまで大した距離じゃないんだから俺は一緒に歩きてーの」
「目立つんです」
「は?」
「常磐さんと歩くと目立つんです」



確かにこうやってる間にもあちこちから視線を感じる。優は下を向いて髪で顔を隠したまま。


「んなの仕方ねーだろ!俺だって好きで目立ってる訳じゃねーよ」
「私は目立ちたくない」




いつまでも平行線……。



「分かった」



こうなったら強行手段にでてやる。

パッと優から眼鏡を取り上げる。私服だし髪下ろしてるから眼鏡取ると、ひいき目抜きにして結構可愛いと思う。百戦錬磨の俺が言うんだからまず間違いない。



「何するんですか!」


珍しく声を荒げる。



「ほら。こうしたら誰も優だってわかんねーし、優も周り見えなくて人目なんか気にならないだろ?」
「見えないけど歩けません!」



ピッタリ木に張り付いたまま固まってる。マジで見えねぇんだろうな。



「じゃ、こうしな」



木に回した優の手を取ると自分の腕に絡める。



「これでいいじゃん。うちまで連れてってやるよ」
「ちょっ……」



有無をいわさず歩き出す。作戦成功。これで優は俺から離れられない(離れたくとも)。


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