彼女が変身した事情
「わっ……」
「すいません」
少し歩いては躓き、歩いては人にぶつかる。ったくどんくせぇ…。
「なにやってんだよ」
腕を解くと腰に腕を回させる。そして優の肩を抱く。
身体が密着する分歩きやすいはず。
「これなら歩きやすいだろ」
「恥ずかしいです」
「大丈夫。どっからどーみてもカップルだから♪」
ちょっと強引だったけど…こういう事に関しては100%免疫がない優にはいい練習。俺のムシ除けも兼ねて。
「それでは誤解を招きます」
「誤解じゃねーもん」
「誤解です」
いつかほんとにこういう風に歩ける様になるかな。・・・・暫く無理かもな。
◆
「ほらよ」
マンションに着いてようやく眼鏡を返してやる。
素早くかけるといつものように指で眼鏡を直す。
-………やっぱおばさんだな-
「なぁ、その眼鏡どうにかなんねぇの?」
「どういうことですか?」
「もっとデザイン変えるとかさ……」
「誰に見て欲しい訳じゃないですから」
無表情~。
俺なんか放ったらかしで玄関を開ける。そのまま締め出しくいそうだったから、閉まりそうなドアの隙間に手を差し込む。
「待てって」
「なんでしょうか」
「もう飯持って来なくていい」
優の耳元に口を寄せる。
「こっちに食いに来るからさ」
「……………」
「迷惑?」
優のやつこっちを見ようともしない。
「一人で食べるより旨いだろ。お互い」
優から身体を離す。
「じゃ、夜に」
頭をぽんぽん撫でて戸を閉める。
-入れてくれるか……賭けだな-
自分の家に入る。離れるとまたあいつの顔を見たいと思う。不思議なもんだな…。