彼女が変身した事情
「~つっ…………」




痛みで声も出ない。右手を押さえて思わずその場にうずくまる。


「ごめんなさい!って常磐!?」
「おい、良介大丈夫か!?」



遠くで真崎や野球部の連中の声がする。う~っ、カッコ悪りぃ……。



「おい、こらブス。おめぇがぼーっとしてっからだろうが」



-カシャーン-



真崎の声と何かが落ちた音。若干遠のいた痛み。顔を上げると女の子の胸ぐらを掴む真崎。


「真崎、放せよ」
「でもよぉ……」



立ち上がって二人の間に割って入る。ちくしょう、痛てぇ…。


「大丈夫だったか?」
「……………眼鏡」
「あ?」


俺の声に顔を上げる女の子。



-ドキン……-



弾みで眼鏡が外れた素顔。真っ直ぐな深い視線で見つめて来る黒い瞳。長い睫毛……。

じぃっと見つめられて思わずドキッとしてしまう。女の熱い視線は慣れてる筈なのに。



「………ごめんなさい。眼鏡無いと何も見えないんです」
「………あぁ、はい」



なんだ。見えてねぇのかよ。
痛い手を庇いながら下に落ちた分厚い眼鏡を拾ってやる。なんで俺がこんな事……。


手渡した眼鏡をかけ直すと改めてこっちをじぃっと見る。超無表情で。いつもの熱い視線が微塵も感じられない。こいつどっかおかしいのか!?



「助けて頂いたみたいでありがとうございました」
「あぁ、別に」
「じゃ、入学式に遅れますので失礼します」


ペコリ頭を下げるとスタスタ校舎の方に歩いて行ってしまった。何なんだアイツは……。なんか気に入らねぇ。


「良介、腕大丈夫?」


心配気な真崎と野球部連中………無性に腹立つ。



「………多分折れた。病院行くから今日パス」
「えっ?折れた!?」


ギャラリーを放って落ちてる鞄を拾うとガンガン痛む手を我慢しながらスタスタ歩き出す。


-何なんだアイツ-



今まで女の子に99%あんな態度取られた事無かった。1%はアイツ。俺の顔見ても何ごとも無いかのように無視。無表情で無関心。


あんな奴初めてだ――…………。
< 3 / 74 >

この作品をシェア

pagetop