彼女が変身した事情

「………っ」



生暖かいものが顔に向かって流れてくる。血だ。

一瞬薄れる意識を必死につなぎ止める。
今はダメだ―……。



「常盤さん？常盤さん大丈夫！？今鈍い音が……」



俺の下に居た優が顔を上げる。眼鏡がない。顔のあちこちには痛々しい痣……。


「くっそ…アイツら」



－え…涙！？－


取り乱した優の姿。
涙に濡れた顔。初めて見た………。




「常盤さん？常盤さん？」



見えないながらに必死に俺を呼ぶ。事を把握しようとしてる。



「ここ。大丈夫だから」



優の手を取って自分の頬を触らせる。安否を確かめようとしてるのか、すぐに両手を使って顔をまさぐる。



「これ………血じゃないの！？」



流れるヌルッとした感触を感じたんだろう。


「平気。心配すんな」



起き上がって優を背中に庇う。




「二人ともフクロ決定♪」
「プールに沈めちゃえば良いじゃん」


三人ニヤニヤこっちを見てる。一触即発ムード。
しつこい奴等だ。





「それはどうかな」
「直行！」



三人の背後にはいつの間に着いたのか直行の姿。



「あ～ぁ、こんなに痛め付けてくれちゃって」


温和な顔。直行は俗に言うやさおもて。その一見童顔とも見える顔立ちと柔らかい表情から甘く見る奴が多いけど…。



「あ？なんだお前。一緒に痛てぇめみたいのか？」



直行の胸ぐらを掴んだ…ように見えた次の瞬間、いつの間にかくの字に身体を曲げて倒れていた。何をどうしたんだか全く分からない。


「馬鹿だなオメェら」「は？」



残った二人がこっちを見る。


「直行はそんな面だけど、空手部の主将。黒帯の全国大会優勝者だぞ？」
「なっ………」


直行が一歩踏み出す。

「ダチ痛ぶられて、大事な女の子傷つけて…ほんとはぶちのめしたいんだよ。顔の原形分かんなくなるくらい」

穏やかな喋り口調と、このにこやかさが逆に恐怖を呼ぶ気がする。