彼女が変身した事情
「ごっ、ごめんなさい」
「でもお前らカスの相手する時間が惜しいの。早く二人の手当てしたいんだよね」
後退りしてる。情けねぇ、さっきの勢いはどうしたよ。
「それでもやる?」
「やりません!すいません、見逃してください」
「今度この娘苛めるなら……命が要らないんだなぁと思うから。そのつもりで」
「は、はい!」
伸びてる奴を引っ張って逃げて行く。
残ったのは女の子三人。
「はぁ……痛て」
頭の傷がズキズキ痛む。軽く目まいを感じるけど、休む暇はない。
「ねぇ、そこの娘達」
振り返る。
「優から取り上げた物返して」
優は眼鏡をしてないし、ブレザーも着ていない。
「あのっ……ごめんなさい!」
1人の娘がプールを指差す。そこには優のブレザーが浮かんでいた。
「おいまてよ……」
また込み上げてくる怒り。そりゃ優じゃなくても泣くだろう。
「お前らずっと優の事苛めてたの?あ、そういえば……」
あの時、一瞬優を見掛けたことがあった。あの時居た連中……気のせいじゃなかった。
「投げ込んだのブレザーと何?」
「あ……あのっ、眼鏡と財布と……携帯です」
ブレザーは浮かんでるとして……あとは水の中か。
しゃがみ込み、涙を拭こうともしないでひたすら泣いている優。初めて感情を表に出したとこ見れたけど……泣かせたかった訳じゃない。笑顔が見たかっただけなんだけど。
「優、今取って来てやっから、泣くな」
着てたブレザーを優の肩にかける。ぽんと頭に乗せた手を、小さい手が掴んだ。擦りむいて血が滲んでいる。
「服も眼鏡も…財布もいいんです。自分のだから。叩かれるのも慣れてるからいいんです。でも………」
声が震えている。か細い声………
「常盤さんから頂いた携帯が。大事な物なのに………水に浸かってもうダメです」
そっか。優が泣いてた原因。でもそれだけ大事にしてくれてたって……期待してもいいのかな。