彼女が変身した事情
「常盤さん!?私の家こっち…」



ジタバタ暴れる優を無視して自分ちに連れて行く。



玄関を入って戸を閉め、やっと優を下ろした。



「一つ確認させて」


優の両手を握り顔を近付ける。
顔同士が触れるか触れないかギリギリの距離。
いくら見えなくても気配くらいわかんだろ。


「優は俺の事どう思ってる?」
「……………」
「自分の事では泣かないんだろ?俺が渡した携帯なんかの為に泣いてくれるって事はさ。期待しちゃってもいいの?」



俯こうとするけど、下手に動くと顔が触れるのが分かるのか、ぴくっと身体がこわ張る。


「信じらんないとかはどうでもいいからさ。正直な気持ち、聞かせて……」
「……………」



優が黙ってから数分。喋り出すのをひたすら待った。






「昔もあったんです。こういう事」


ぽつり優が呟いた。



「父の仕事の関係上、何度も転校したりしてて。私、見ての通りこんなだから友達とかできなくて…」
「うん」



少しずつ、少しずつ話す優。



「中学の頃、クラスで一番カッコいい男の子に告白されたことがあったんです。君の中身が好きなんだよって……すごく嬉しくて。一週間後にOKするまでドキドキだった。こんな私にも好きになってくれる人がいるんだって。返事するまでの間が夢のようでした」
「うん」


でも、次の言葉に耳を疑った。


「一週間後に『よろしくお願いします』って返事したら、その男の子に『お前みたいなのに誰が惚れるかよ』って言われたんです。その告白は、実は麻雀の罰ゲームで『惚れてる振りすんのきつかった。手握った日なんか薬用石鹸で何回も洗った』って周りに言い触らされたんですよね」



淡々と喋る優。辛い思いで。きっとトラウマなんだ。



「それからすぐまた転校しちゃったんですけど。行く先行く先、結構苛められて……慣れみたいなものなんですね、感覚が麻痺して痛みも辛さもすぐ忘れます」



だから感情が麻痺してんだ。自ら辛い出来ごとを消去出来るように……




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