彼女が変身した事情



「痛ってぇ…」




思わずキーンてなる耳を押さえたら、手が緩んだみたいで、慌てて優の身体が離れた。チッ、もう少しだったのに…。





「優、声高けぇ…」

「もう変なことするの止めてくださ…」

「キスか?」

「………っ!?やめて!」

「はいはい。わかりましたよ~」





両手を上げて降参のポーズ。
ったく、そんなに涙溜めてるとコンタクト流れるぞ?





「キスくらいで拒否りやがって…そんなに嫌なのかよ」





演技とはいえ、軽くショック。
今まで誘惑されることはあっても、拒否られることなんかなかったから。しかも好きな娘にこんな態度取られるなんて………マジ凹む。






ツンッ






袖口を引っ張られて、ふと視線を向ける。





「あの…常磐さん?」




急にそっぽ向いて大人しくなったもんだから、それなりに気になったのか、不安げに見つめてくる。



‐だからその目やべぇんだってば…‐






「………」





でも答えてやんない。






「怒ってるんですか?」


「………」






しまいには優まで俯く始末。

車内に流れる嫌~な空気。


それを壊したのは、お袋の余計な一言。




「優ちゃん?良ちゃんはね、優ちゃんに『良介』って呼んでほしいのよ。それに敬語も直ってないようだし……もっと優ちゃんとイチャイチャしたいだけなのよ。単なる我が儘。お子ちゃまだからね♪」





‐はぁっ?うっせー!余計な事言いやがって……‐




当の優はというと、恋愛に疎くても頭はいいから、若干悟るものはあったようで……



「あの……っ」




意を決するように、パッと顔を上げて何かを言いかけた時だった。





「あら~、着いちゃった♪下りましょ」



気付けば店の前。
バットタイミング。
そして空気が読めないお袋……



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