love song

路上ライブが終わり、その日スカウトが来て、芸能界に入るかもと話を雅人にした時、雅人は自分の事のように喜んでくれた。
「これで毎日芹名の歌が聴けるんだね。凄いや」
「…ねぇ、デビューしてもこうして会ってくれる?」
正直、『勿論』と返ってくると思った。自惚れていたのだろう。でも返ってきた言葉は逆。
「無理だよ。もう芹名は雲の上の人だもん。それに…」
言葉を詰まらせた雅人に真剣な眼差しをむけて緊張に渇いた口を開き。
「それに…?」
「…俺、病気なんだ。心臓の。もう長くないみたい」
「……え?」
「隠しててごめん。俺さ、病院抜け出して芹名の歌を聴く事が楽しみになって当たり前になって…芹名の事好きになって、でも、いつ死ぬか分かんない俺なんかと一緒に居たら芹名に辛い思いさせちゃう」
泣きそうな表情で笑みを見せてくる雅人を見て、私はギターを落として抱き付いた。
「っ…そんな…そんな理由納得出来ないよ!私も雅人の事好き。雅人に残された時間が少なくても私は雅人と一緒に居たい!雅人に歌を聴いてもらいたい!」
「芹名…」
「だから…だから…傍に居て?これからは私が病院へ雅人に会いに行くから」
「芹名、辛くない?」
「このままさよならの方が辛い」
「…我が儘なお姫様だなぁ。でも…有り難う」
雅人はそう言うと細い腕で抱き締めてくれた。抱き合った雅人の身体はとても細くて華奢だった。雅人が病気なのを知ったのがこの時。私はこの時に自分だけじゃなく雅人の為にも歌う事を決めた。悲しいラブソングじゃなくて、溢れるくらい愛のこもったラブソングを。
< 5 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop