脱力系彼氏
 あたしは家に帰り、すぐにお風呂に入った。上せそうなくらい湯船に浸かって、昇ちゃんに送るメールの文章を考えたかったから。

それから、慣れた手付きでメールを打つ。



宛先:昇ちゃん
件名:
―――――――――――――――――――
今日はありがとう。
もうちょっとで3か月だね! 14日は空けといてほしいな



……送信、と。

少しシンプル過ぎたかな、なんて思いながらも、昇ちゃんの反応を想像すれば自然と笑えてしまう。きっと、絵文字や顔文字を入れたら、眉を顰めてメールを読む姿が目に浮かぶ。


自分で打っておきながらも、変な感じがする。もう3か月だなんて、凄く不思議だ。

時間は止まらずに経っていくけど、あたしと昇ちゃんが一緒にいる時間は、きっと1か月もない。1か月どころか、1週間もない気がする。


どんなに好き嫌いや考えてる事が分かったとしても、お互いの事は、きっとあんまり解り合えてなくて……本当の気持ちは探しても捜しても、全然見えない。

昇ちゃんの事だから、きっとあたしの事が嫌いになってしまっても、振る事が面倒臭くて、振らないのかもしれない。

それに気付けずに甘えてしまったらどうしよう、なんて不安が過ぎる。



あたしが小さく溜め息を吐くと、タイミング良く青く携帯のランプが光った。
……昇ちゃんだ。


あたしは慌てて携帯に齧り付き、メールを見た。


送信者:昇ちゃん
件名:RE:
―――――――――――――――――――





……お?!


1文字?!
「おー」って事?
「ー」くらい打とうよ!


あたしは愛想のカケラもない文章に笑いながら、短く「おやすみ」と打った。
ビールで、そろそろベロベロになってる姿が目に浮かぶ。

たった1文字でも、ちゃんと返事をくれた事に、妙に安心してしまう。

あたしは送信ボタンを押して、のそのそと布団に潜り込んだ。
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