天を衝く槍
「とりあえず、どしたん?」
私が漸く落ち着いた時に、ヨースケが言った。
彼の声音からして、ヨースケもこの状況をイマイチ理解していないようだ。
私は涙を拭いて、彼を見た。
息を吸って、言おうとした時―—
「なに?さっきの悲鳴」
少しイラついた声がヨースケの後ろから聞こえた。
「ジューシロー……とギルか」
彼が不機嫌そうに眉を寄せているシロさんの方に振り返って言い、間を開けてチラリと私を見た。
……いや、私ではなく、私の後ろにいる息を切らせたギルを。
「な…なんだよ、これ」
ギルが目いっぱい開いてウルノを見る。
といっても、彼はほとんど原形をとどめておらず、これがウルノだと判断できるのは血だまりの中に自分の名前が刻まれたネックレス……ドックダグがあったからだ。
もちろんそれは私にも支給されている。
「血の匂いがして、悲鳴が聞こえて、それで来て…」
ギルがわなわなと震える。
「ギル、落ち着いて。これは肉の塊。俺らを襲ってはこない」
シロさんがまるで彼をたしなめるように言う。
ギルは何かに怯えているようだった。
「でも、アイツらは―—」
「違う」
混乱するギルにシロさんが遮る。
「あれは―—」
「ジューシロー」
何かを言おうとしたシロさんをヨースケの言葉が制した。
「慎めぇや、口」
彼の声が、怒っている。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
少しの間、ヨースケとシロさんが互いに睨んでいた。
「で、何があったの」
彼はヨースケからフイッと視線を逸らし、少し震えているギルの頭を撫でながら言う。
そんな彼の目は、どこか切なかった。
「俺はコウガの悲鳴を聞いて慌てて来たんやけど…」
ヨースケはチラリと私を見る。
「あ…」
そんな目が何故か怖かった。