天を衝く槍
そんなことを思ったのは、ほんの一瞬で。
-----フゥウッッ
小さな竜巻が出来る音のように空気が動いて、前を向いているシロさんの目線の先に、それは現れた。
まるで、返り血を浴びて赤く染まることを望んでいるような真っ白な服を着て。
それは現れた。
「今日は、必ず」
隣にいるシロさんが誰に言うわけでもなく、強く願うように、低く唸る。
今日ここで決着をつける。
次まで待ってられるか。
お前は今日、俺がこの手で葬る。
まるでそう言っているように。
と、不意に……ク…と笑いを堪えているような声がした。
声がした方を見ると、フィーネさんが今までにないくらい目を見開いて、今までにないくらい口角をあげていて、今までに見たことがないくらい獲物を狩る者の瞳をしていた。
ぞくり、と背中が凍る。
そんな彼が見ているのは、あの白い集団。
「…………………………」
だけど彼が見ているのは、ジェゾじゃない。
その白の真ん中に目立つ黒があるから。
彼の目には、ジェゾの短い檸檬色の髪と違って、長く黒い髪を靡貸せている男が映っていたから。
「…………………………」
見慣れない黒髪の男を見て私は眉を顰めた。
………あれは、誰だ?
なんて思った矢先、ビュウゥッと強い風が吹いた。
砂埃が舞い、私の目を遮る。
治まった後に目を開けると、Lunaの真ん中にいた筈の長い黒髪の男はおらず、最初からいなかったかのよう。
―—幻覚…?
周りを見てそう思った。
いやまさか。
「……ヒヨコ、」
不意に、そんな静かなシロさんの声と、カチャとヨースケがツメを動かす音が重なる。
「構えて。来るよ」
私が彼を見ると、彼は私を見ずにまっすぐ前を向いたままそう言い、刀を握る手と地を這う足に力を込めた。
「はい」
そんないつもよりも真剣なシロさんの横顔を尻目に、私もフォシャールを握る手に力を込め、フィーネさんを筆頭に力強く地面を蹴る。
―――そして12年に一度の聖戦が始まった