天を衝く槍
「ゴボッ」
そんな音が口から聞こえ、鼻からも脇腹から液体がボタボタと落ちていく。
「…っ」
これまで何度と嗅いできた匂いなのに、今の匂いは、やけに気持ち悪い。
吐きそうだ。
「……クロ…?」
彼の体から流れ落ちていく液体は赤ではなく、黒色だった。
「誰が、〝血は赤〟ッテ決めたノ?」
ツァンジーが困惑した私を見てニタリと笑う。
彼の輝いていた金髪は私の血で赤い模様を作っていた。
ダラリと、涎と血液が混じった液体を口から垂らしながら俯いた顔を上げ、真っ黒な目が私を引き込む。
「ッ!!!」
真っ黒な瞳に恐怖を感じた私は、彼の腹に刺さったフォシャールを引き抜き、距離をとる。
「ヤレヤレ、本当は傷一つ無く帰りたかったンダけどナー」
そう楽しそうに彼が言い、鼻血をぬぐう。
――え
私が気づいた時には、すでにツァンジーは地面を蹴って、こちらに来ていた。
気を抜いていたわけではない。
「貰うヨ?」
――え?
正しくは、目と鼻の先にいて今にも私の目を抉ろうと手を伸ばしている。
目いっぱいに開いて、気持ち悪いほど楽しげな彼の顔を見た私は動けずにいた。
ある種の恐怖が心を埋め尽くす。
やば、躱せな――