天を衝く槍
――ッパッ
小さな、そんな音がして、いきなり彼の腕が消えた。
「ッ!!?」
私の目を抉り取る前に消えてしまった。
ツァンジーが自らの意思で腕を引っ込めたのではない。
「ァ?」
彼の歪んだ笑みが一瞬にして驚きと困惑の表情に変わり、私の方に倒れる。
が、私は誰かにグイッと引っ張られ、ツァンジーが私の上に倒れることはなかった。
「ぅガァァァぉアオああ!!?」
ツァンジーが叫ぶよりも早く、新たにできた大きな傷口から真っ黒な、まるで墨汁のような血がブシャァアアっと溢れ出す。
「うわー気持ち悪いな」
あははと笑ながら全く気持ち悪そうに言わない彼を、私は驚いて見る。
「ヨースケ…」
「ん?」
彼はいつもと変わらないおどけた顔で私に笑いかける。
「どうして…」
もしかして、私が向かっていた場所は彼がいる場所だったのだろうか。
ちゃんと確認をしておけばよかった。
そんなヨースケを見ると彼は、ボロボロだった。
丈夫なはずの制服が所々破けて血が滲んでいる。
だけどパッと見たところ大きなケガは無さそうだ。
「あっぁぁぁああっぁっァァァァっぁあ!!!!!」
ツァンジーが尚もウサギの鳴き声よりもひどく耳障りな声を上げる。
そんなヨースケと私は耳を塞いだ。
「てめえェェエエエエぇッッ!!!」
「〝メェー〟は山羊サンですー」
ヨースケがまるで何言うてますの?とでも言うように陽気に、ものすごい形相で彼を睨んでいるツァンジーに向けて言った。
「…………………サスガ……」
こんな場面で冗談を言うとは何ともスゴイ男である。
やっぱりヨースケはただ者じゃないようだ。