天を衝く槍


-----グチュルゥゥッッ


なんてふざけたヨースケもツァンジーが発した気持ち悪い音を聞いて、サーッと血の気が引いていく。


「なんか生えてきたー!!!」


「え」


「嘘やん!!?俺が斬った場所から生えるか!!!」


そんなげんなりしているヨースケが見ている方を見ると、ツァンジーが四つん這いになっていてヨースケによってもげた腕の傷口から、白い触手のような腕のようなものが生えている。


口は耳のある場所まで裂け、更には傷という傷から白い触手のようなものも生えてきていた。


それはどんどん増え続け、彼は白い塊になってしまうんじゃないかと思うほど。


「うわ、きもっ。なにあれ?なんあれ!?何なんあれ!!?」


「う、腕から腕が生えてる…?」


「腕から腕が生える!!?ダジャレか!!!うははははおもろいなそれ!!!って、んなわけあるか!」


「どうしたの、ヨースケ」


「この状況を楽しんでいる」


さっきのハイテンションは何処に行ったのか、キリッとしたヨースケが私を見る。


「なんで!!?なんで冷静に自己分析してんの!!?」


「こんな状況だからこそ、冷静な思考も大切なんだぜ」


あぁ、なるほど。


ドヤ顔をも決めるヨースケに私は少し引いて納得する。


「じゃぁ、あれなんでしょう?」


私はツァンジーの白い触手を指す。


「…何って……治癒能力が変化した感じやんか。知らんけど」


「あ、知らないんだ」


「それより、まさか首をはねてもまた再生するってことはあらへんよな?」


ヨースケが腕を組みながらツァンジーに聞く。


「さァ?」


ツァンジーはニタニタと黒い液体で汚れている口を歪めながら言う。


「やってみればいいんじゃないノ?」


ツァンジーはそう言って地面を蹴り、私とヨースケとの距離を縮める。


「アカンんんん!!!近づくな、キショク悪ぃッッ!!!」


ヨースケは叫びながらツァンジーが詰めた距離をすぐに開いて、高く跳躍する。


「ハッ」


そのヨースケの叫びが合図だったように、私は手にしていた槍でもう一度ツァンジーの脇腹を裂く。


-----ブシュァワァァアアァッッ


音を立てて派手に黒い血が雨のように降り注いで、地に染みを作る。


「!」


しかし、さっきの腕とは比較する必要が無いほどに早く、私がつけた傷口がふさがってしまった。


――早すぎるッ


私は小さく舌打ちをして態勢を変えようとした途端、ツァンジーに左腕を掴まれた。


「いっ!!?」


敵に身をとられるとは何て不覚。


ただ掴まれているだけなのに、抓られるような痛みが左腕に走る。


腕を振り回すも、全くとれない。


「くっ」


そして痛みが急に激しくなり、掴まれているところから血が出はじめる。


「やぁッッ!!!」


やっとのことで離したのと同時に、上からヨースケがツァンジーの両腕を斬り落とした。


ツァンジーの両腕はゴロゴロと転がって行き、地面にできた小さなクレーターのもとへと吸い込まれていく。


ヨロヨロとしてかろうじて立っているツァンジーを見て、私は患部をおさえて彼と距離をとる。


傷が深いようだ。


ドクドクと血が流れ、手が少し震える。


その間にもヨースケは間髪入れずに急所を突いていく。


目、首、みぞおち。


突く度にツァンジーの小さな悲鳴と音が聞こえて、少し同情してしまいそうになる。


顔に返り血をつけているヨースケは、膝をついているツァンジーから距離をとり、血振りをしようとして自分のツメを見てふと動きを止める。


「…うぇ」


ツァンジーの目玉らしきものが、ツメの真ん中あたりに刺さっていた。


――うわぁ…


彼は汚そうにそれを手で取り、そして改めて血振りをした。
< 256 / 294 >

この作品をシェア

pagetop