天を衝く槍


アルが誰かを待つようにドアを開けている。


「いや、俺は――」


「いーから入りなさいよ」


そこから聞こえてきたヨースケの声と知らない女の人の声。


白衣を着た彼女はヨースケの背中をドンと押し、この部屋に入らせる。


私と躓いたようにこの部屋に入った彼の目が合うと彼は、居たたまれないというように俯く。


初めて見た、彼の眉根が下がっている顔。


……私ヨースケに何かしたっけ。


どうしてだろう。


分からない。


そんなヨースケの様子を見て彼女は息を吐き、アルの方を見る。


アルは仕方ないと言うように肩を竦めていた。


「あら、シロもいたの」


そして彼女は隅で腕を組んでいるシロさんを見つけると、驚いた表情を浮かべながら病室に入る。


まるで、貴男が来るなんて意外だったわ、とでも言いたげに。


彼女の後ろにタブレットを持ったさっきの男の看護師も入り、さっきまで寂しかった病室が、一気ににぎやかになったような気がした。


ヨースケは手首に包帯がしてあるが、大きな怪我は見当たらない。


ただ、気になったのは、彼の首や手の甲、服から出ている肌に多数のひっかき傷があることだ。


「……………………………」


私の爪に残っている血と、ヨースケのあの傷と、私を見た彼のあの反応。


……もしかしてあれは私がやったんじゃないだろうか。


なんで、分からないんだろう。


記憶がない私は怖かった。
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