天を衝く槍


「おはよう、コウガ」


診察が終わり、女医と看護師が出て行った後、アルが改めて笑顔で言った。


「うん、おはよ」


私もアルに笑顔で言い、ヨースケの方に向き直る。


「ごめんね、ヨースケ。痛かったでしょ」


私がそう言うと、アルとヨースケは思ってもみなかったらしく、目を真ん丸にして驚く。


「いや、コウガは…悪くない」


ヨースケは私がつけたらしい傷を隠しながら、バツが悪そうに私と視線を逸らした。


こんな風に寂しげな表情を初めて見た。


「だってそれ、私がやったんでしょ?」


「え?」


私の発言で、この場が凍りついた。


目線を落としていたヨースケが、顔を上げる。


「覚えてないの…?」


アルが怪訝そうに私を見る。


心なしか、あんなことをして覚えてないの?とでも言いたげにみえる。


「…なに、?」


知らない。


その途端、アルの表情が崩れた。


呆れたような、困ったような。


「コウ――」


「ちょっと二人とも出てて」


何かを言おうとしたアルの言葉を遮ったのは、シロさんだった。


「俺が話聞いとくから」


いつもと変わらず、無表情でアルとヨースケをこの部屋から出るよう促す。


「…あぁ」


二人が出てドアが閉まる間際、ヨースケの自分を追いつめたような表情と、アルの信じられないという呆れたような顔が見えた。
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