天を衝く槍


あぁ、なんだ。


そういうことか。


……そっか。


体が落ち着いた後、私は思い出した断片的な記憶を頼りに、頭の中でまとめた。


そしてたどり着いた結論。


「…もう会えないんだ……」


なんとなく、仕方がないことだと思った。


だから、ヨースケに手を出した私に彼は、私は悪くないと言い、アルが怒ったのだ。


「………そうだね」


パタン、とドアが閉まる。


シロさんは手にマグカップをひとつ、持って入ってきた。


そして私に渡して、この部屋から出ていく。


まるで自分の役目を終えたとでもいうように。


私が少し落ち着いた後、彼は何かあったかいものを持ってくると言って出ていったが、まさかココアとは。


私はココアを飲み干し、ヨースケのもとへ行こうと立ち上がる。


まだ体が痛むものの、骨折もしてない。


まぁ、腹の傷はかなり痛いが車いすに乗る程ではない…筈。


手すりにつかまって歩けば何とかなるだろう。


『何やってんだよ、コウガ。早くしねえと置いてくぞー』


立ち上がって一歩踏み出そうとした時に、ふと頭の中で、ギルの声がよみがえった。


『こらこら、食堂行くだけなのに何で急かしてんの』


ギルの後ろで、フィーネさんが苦笑する。


『何言ってんだよ、フィー。今年一人しかいない大事な仲間だぜ?善は急げだろ』


『…大事な仲間……』


ポツリと、私が小さく呟くと、ギルは当たり前だろとでも言いたげに、ニィっと笑う。


『考えたくはないけど、もし僕らが死んでも、キミは僕らの仲間ってこと』


フィーネさんが微笑む。


そのとき私はそう言ってもらえて、すごく嬉しかったことを覚えている。


『ま、もし俺が死んでも、ゾンビになって生き返るけどな!』


『え?なにそれ、B-ウイルス?』


ガハハとオッサンのように笑うギルに、フィーネさんがクスクス笑う。


『違うわっ。しかも、Bってなんだよ、Bって』


『ゴキブリのBだよ。Blattodeaだから。ほら、生命力高いって言うでしょ』


『うわ、晩飯前にゴキの話とか…。何でそんなの知ってんの?てか、ゾンビもう死んでるけどな』


『小さい頃、本で読んだ』


『………何でそのチョイス?』


そんな話をしながら食堂へ向かったっけ。


この記憶は確か私が入って間もなくて、アル達が任務でいない時に、夜ご飯を食べようと、二人がわざわざ私たちの自室に迎えに来てくれた時のだ。


そっか、こんなこともあったなぁ…。


思わずふっと、笑ってしまう。


だけどもう、会えないんだよなぁ。


「っふ、うぅ…」


ポタリと、涙がまた落ちていく。


――もう、会えないんだ


「ぅあぁぁ…」


洟をすすって涙をぬぐう。


ふと、窓の外を見ると、再び雲に隠れていた太陽が顔を出して、大地を照らしていた。
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