天を衝く槍
「シローさ、前髪切んないの?長くね?」
それから何時間か経って、お開きになってジルとヨースケを見送った後、廊下でアルが突然そんなことを口にした。
先程、私が思っていたことを、彼女はサラッと言った。
「眩しいから」
シロさんは少し間をおいて、答えを言った。
「あ、そう」
聞いてはいけないことだと勝手に思っていた私は、別に大したことではなかったのだと思い、安心する。
だけど、それも束の間。
「シロー、ここ座って」
「え?」
アルは階段までシロさんを連れ、座るよう促す。
「何してるの」
そして座った彼の前髪をいじり、どこから出したのだろうか、前髪をつむじの方にピンで留めた。
彼は瞼を閉じていたけど、似合うと思う。
「よしおっけー。んじゃ!」
そしてアルは満足したかのように自室へ帰っていってしまった。
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
彼は目を開けず、何も言わない。
まるで石像になってしまったかのように。
この状況を、私にどうしろと?
「じゃぁ、シロさん、私もかえりますね」
どうすればいいのか分からなかった私は、ここを立ち去ることを選んだ。
もしかしたら、彼は目を開けたくないのかもしれない。
目の色を私に見せたくなかったのかもしれない。
今はそっとしておいてほしかったのかもしれない。
全て憶測でしかないが、一つ、そう思うのには心当たりがあった。
――もしかして、黄色なんじゃ…
帰りながら、そんな憶測を奥深くに封じ込めた。
だけど、それが本当のこととなるのに、時間はそんなにかからなかった。