天を衝く槍
「いつものウサギが雑魚みたいに感じられたんですよ、今日」
私はいつもと変わらず、任務から帰ったときの報告をする。
今日が最後かもしれない、なんて悪い考えを払拭するように。
今日ウサギが雑魚に感じられたのは、前にシロさんから教わったことを実践してみたからだ。
彼が言ったのは、ウサギと自分と一対一で戦う時の先方ではなく、任務を手っ取り早く終わらす方法。
つまりは自分一人と、多数のウサギを相手にする戦法。
それなのに、苦戦することなく雑魚に感じられるなんて。
「きっとシロさんのお陰ですね」
私は一瞬、喉に突っかかったような言葉を吐き出す。
泣かないと決めたのに、我慢できない。
ポタリと一滴の雫が落ち、シーツに小さな染みを作った。
ふぅぅうっ、と口から息を吐き、私は鼻を啜る。
「……約束…覚えてます?」
そう言い、私は涙を拭う。
それはまだ彼が入院したての頃。
シロさんは覚えているかどうか分からないけど、病気が治ったら手合わせをしてくださいと頼んだのだ。
覚えていたのだろうか。
彼は肯定の意を表すように、ゆっくりと瞬いた。
「約束破ったら、針千本飲まないといけませんよ」
私はそう言い、しゃくる。
こんな言葉は病人相手に言うべきじゃないかもしれないが、冗談のように言う。
しゃくったので彼には軽く捉えられなかったかもしれないが。
それでもシロさんは、さっきと同じようにゆっくりと瞬く。
「……うー…」
俯いた為に、ぽたぽたと涙が落ちていく。
それが彼の手に触れ、彼の手が濡れた。
私はそれを隠すように、彼の手を握る。
ふと、顔を上げると、シロさんと目が合った。
彼の目の中に泣いている私が映っている。
「………………………」
と、彼が瞼を閉じた。
「シロさん」
そのまま目を開けないのかと思った私は、思わず彼を呼ぶ。
まだ死んでないと言うように彼は目を開け、自嘲気味に口角を上げた。
ヒモを解けば、ものすごく簡単なことに悩まされていたように。
そして、ふーっと長く息を吐く。
彼は目を動かし、顔を動かし、窓の外をじっと見た。
12月もそろそろ終わるこの頃なのに、雪雲は見当たらず、空は綺麗な青色をしている。
ある意味の晴れ舞台、ともとれる程。