天を衝く槍
暫く沈黙が続いた後、シロさんはふと、私の方を見た。
だけどそれは違った。
私の奥の人。
つまりドアの近くに立っている、フューチェの方を見ていた。
――と、不意に彼と目が合った。
だけど、焦点が合っているのかは定かではない。
シロさんの手が伸びてきて、私の頬にそえる。
――え?
「シロさん…?」
嫌な予感が、頭の中を埋め尽くす。
それと連動するように、止まったと思っていた涙が、溢れ出す。
私を見るシロさんの目が、いつにも増して、見たことが無いような程、優しい。
「嘘、ですよね…?」
私はその手を握る。
そんなことない。
まだ温かい。
なのに、シロさんはサヨナラと言うように口角を上げる。
「……なんでそんな顔して笑うんですか…」
私は俯いた。
どうすればいい?
離れたくない。
何もしない、何も伝えない。
それは厭だ。
「……私…貴方に出逢えてよかったです」
精一杯の思いを込めて、ぶつける。
言えなくなる前に、全てぶちまける。
それが前に言ったことだとしても。
「シロさんは、死んでいく人なんて忘られていくだけだと言ってましたけど、それに私を含めないでくださいね」
私が貴方を忘れるわけ、ないじゃないですか。
どうしてそんなことが出来ましょう。
ふと彼を見ると、シロさんは目を閉じていた。
もうきっと、彼が再び目を開けることはないのだろう。
「貴方は私の記憶なかで生きている」
閉じているシロさんの目から涙が目頭から零れ、斜めに道を描いていく。
「愛してます、ジューシローさん」
そして私は彼の額にそっと口付けた。
「アリガトウ」
小さな沈黙の後に、シロさんが言った気がした。