ブラック王子に狙われて②
・消したい過去
風呂から上がり、リビングに行くと
母親が血相を変えて駆け寄って来た。
「慧っ。うっかりしてて、絢ちゃんに理恵ちゃんのこと、知られちゃったんだけど……」
「は?……え、何で?」
「慧たちのビデオ観てて、その流れでアルバム見たいって流れになって……」
「………」
「たぶん、感づいたと思うから、気遣ってあげて?」
「……ったく、余計なことしやがって」
「ホント、ごめんね……」
母親は拝む勢いで両手を合わせた。
母親が言う『理恵』というのは、俺の許嫁だった子。
元々、父親の会社の専務で、
父親と大学時代からの親友だった人の娘。
父親が祖父から会社を受け継ぎ、
順風満帆に経営してたんだけど、
その専務が、会社の金を横領して逃走した。
もちろん、直ぐに逮捕されたんだけど。
それを機に、もちろん許嫁という関係も解消した。
元々、『許嫁』なんていう関係自体、
幼かったこともあって受け入れられなくて。
1つ年下だった理恵の面倒は見たけれど、
特別な感情を抱いたことは一度もない。
というより、兄貴が理恵のことを好きだったから、
俺はあえて距離を取ってたように思う。
それもあって、兄貴は俺に常に牽制体勢を取るようになった。