ブラック王子に狙われて②
9月下旬に無事、結納を交わした。
と言っても、よくある結納の品を交わして
レストランの個室で食事をしただけだけど。
あ、それと。
記念写真だけでもと、両親のたっての希望で。
絢は、めちゃくちゃキレイ可愛い振り袖姿を披露してくれた。
一人娘ということもあるし、
この先、暫く離れて過ごすという事もあるから、
絢の両親の力の入れようはハンパない。
こんなにも沢山の愛情を受けて育った娘を
いとも簡単に掻っ攫ってしまうようで。
申し訳なさと、この先の長い人生において
自分も家族として迎え入れて貰いたいという願望が
何とも言えないほど、複雑に交差する。
正式にプロポーズしたわけじゃない。
だけど、両家の両親は、完全にしたと思い込んでる。
絢も絢で、それ自体を忘れているというか。
目の前の『安心』に騙されてるような感じで。
内心、このタイミングで言うべきなんじゃないか?と、
心底焦りまくりで動揺してるんだけど。
でも、やっぱり。
自身の足下をしっかりと固め上げた時に言いたくて。
情けないし、卑怯な男だと思うけど。
あと数年だけ待ってて欲しい。
その日が来たら、ちゃんと伝えるから。
両家で撮った写真を見つめ、
微笑む絢を見据えて、心の中で詫び続けた。