キミの好きなところ。
 

―――


「…北村先生。」

緊張して裏返りそうな声を必死に押さえつけて、その名前を呼ぶ。
「ん」と、先生が私に顔を向けた。
…大好きな笑顔だ。

「あぁ、藤原。悪いな、呼び出して」

「…いえ」

「これ。プリント、配っておいて。次の時間に答え合わせするから」

そう言って、渡される紙の束。
昨日の小テストだ。

すぐに、私から反らされる、先生の目線。
そして、私に向けられる、先生の背中。

……そんなものだよね。
私たちの恋は、ヒミツにしなきゃいけない恋、なんだから。

「…はい。わかりました」

寂しい気持ちを声に現さないように気を付けながら答える。
そして、私は先生の背中に視線を落としてから、その場を去った。

―――抱きつきたい衝動を抑えて。


 
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