恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~
「…おかしい。」
私が着いてから15分。約束の時間から10分。
さすがにこの時間になっても現れないのはおかしいと感じ始めた。
左右をグルグルと見回す。成瀬君の姿らしきものは見えない。
来ていない?なんで?どうして?
頭の中は疑問と、不安と、焦りでいっぱいだ。身体が平衡感覚を失ったかのように、安定しない。バランスがとれない。
近くの木に身体を預けて、「私」を取り戻す。
落ち着いてもう一度見回す…やっぱりいない。
「炎」は、辺りの闇を照らし、光をもたらすものである。
では、何故、光が必要なのか?
答えは簡単。人を、物を、風景を見えるようにする為。
その近くにいるもの全てが対象となり、例外は無い。
そう。例外は無い。障害物が無い限り、上下左右360度、あらゆる角度を照らし出す。
だから、屋上からキャンプファイアーを覗き込んでいる成瀬君も…見える。
私は、舞い上がる炎と灰に感謝するべきだろう。目を上に向けさせてくれたのは紛れも無く、それらのおかげなのだから。
どうして、あんな所にいるんだろうっていう当然の疑問は、成瀬君の目を見た瞬間にすっ飛んだ。
まさか、あの目をもう一度見ることになるなんて思わなかった。
ファミレスでの「もう慣れたよ。」って言った後の、どこにも焦点を合わせていない空っぽの瞳を。
地上から屋上まで、約25メートル。それが、今の私と成瀬君の距離だ。
でも、その25メートルは「たった」と表現できるほど、簡単に縮まるものではないと分かっている。
校内へ駆け足で戻っていく。あんな目をした成瀬君を、放っておけるわけがない。
そして、聞かなければいけない。来なかった理由と、転校してしまう理由を。