恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~
屋上へ続く重い鉄扉を、両腕を広げるようにして開いていく。
開けた瞬間、冷たい風がさっと頬を撫でていく。秋に入り、夜は少し冷えるようになってきたらしい。
扉を開いた時の音で、誰かが来たっていうのはわかっている筈なのに、背を小さく丸めた成瀬君は、こちらを向こうとしない。
多分、「誰か」が誰なのか、わかっているから。
「え~っと、もしかしたら、待ち合わせ場所伝えてなかったかな?」
伝えていた。しっかり、はっきり、「中庭で7時に」と。
でも、話し出すきっかけが欲しかったから、こんなバカな質問をした。
「ごめん。」
成瀬君はキャンプファイアーを見ながら、謝罪する。私の方を見ようとしてくれない。
「いいよ。私もあんまり気にしてないから。」
バレバレの嘘を吐くのは良くない。
「ごめん。」
こんな風に、嘘を見破られてしまうから。
そして、逆に気を使わせてしまうから。
成瀬君の2度目の謝罪は、1度目よりも重たくて、しっかり気持ちが込もっていた。
だけど、私の方には向いてくれない。当分このままで話を続けるつもりらしい。
本当は謝罪なんてどうでもよかった。ただ、私の方を見てくれて、手を取って踊ってくれるだけで良かったのに。
「俺は怖かったんだ…」
「ごめん」以外の言葉を始めて喋った成瀬君から、信じられない呟きが漏れる。
怖いなんて成瀬君らしくなかった。いつでも、明るくて、元気で、皆を笑わせてくれる太陽みたいな人なのに。
きっと、この先には成瀬君の全てが詰まっている。全神経を耳に集中させて、話を聞くことにした。