恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~
お誘い
「どうしてって、ちょっと母さんに晩御飯の買出し頼まれてさ。ここが一番品揃えも良いし、安いんだよな。」
片手にカゴ、片手に買ってくる物が書かれたメモを持った成瀬君が近付いてくる。
「あれ?綾瀬のでラストだったのか?」
空っぽになった棚を覗きながら、少し残念そうに言う。隣に塩バニラ味があるのだけど、やっぱりスタンダードなチョコレートの方が人気が高いみたいだ。
「成瀬君。よかったら、これ食べる?・・・と言ってもまだレジは通してないんだけど。」
カゴの中から最後のぽきっちょを取り出し、手渡そうとする。
「あのなぁ、綾瀬が欲しくて買ったんだろ?そんなの貰えないって。」
胸の前で、メモをひらひらさせながら手を振って、「いらないよ」っていう意思表示。
でも、やっぱり好きな物を食べられないっていうのは、悲しいし可哀想だと思う。
「じゃあ、半分こしようよ。これ2袋入りだし。」
だから、こういう言葉が自然と口から出た。一緒にいたいからっていうのも当然あったけど、成瀬君に喜んで欲しかったから。
「ありがとう。じゃあ、ちょっと待っててくれないか?母さんからの頼まれ事、さっさと済ましてくるよ。」
本当に嬉しそうに笑いながら、成瀬君は買い物に戻っていく。あの笑顔が100円の半分の50円で買えたっていうのだから、何てお買い得なのだろう。
「ちょっと待って、私も付いてく~。」
カップ麺とおにぎりとお菓子はカゴの中に。成瀬君の笑顔は私の目の中に。
スーパーで成瀬君の笑顔まで買えてしまった私は、尻尾を振っている犬の様に上機嫌なまま後を追って隣に並んだ。