恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~
「一緒に踊ったってことは、きっとその子も灰まみれだったはずよ?」
乱雑に脱ぎ散らかした制服を見ていなかった私は、それに気付くことはできなかったけど、成瀬君がそうなら、きっと私もそうなのだろう。
「シンデレラは『灰かぶり姫』とも呼ばれているわ。何故かと言うと、主人公の女の子は義母と義妹にいつもいつも虐められて、かまどの灰掃除ばかりさせられていたから。」
気が付けば、私も成瀬君も手を止めて、お母さんの話に聞き入っていた。
「シンデレラと言えば、綺麗な服に、華やかな舞踏会、そしてハッピーエンドと、とにかく明るいイメージでしょ?」
真剣に話を聞いている私達を見て、少し恥ずかしくなったのかもしれない。
天ぷらの器を私達の方へ持ってくることで、「話半分に聞いてていいのよ」ということを伝えた。
「でも、幸せになる前はずっと虐められていた。わらで作った布団で寝て、お風呂にも入らせてもらえず、ひたすらに命令されて、人として扱ってもらえていなかった。」
「もし、それが私なら、逃げ出していたかもしれない。逃げられなかったら、かまどの灰を口一杯に含んで、死んでいたかもしれない。」
天ぷらはさっきから全然減らず、ただ冷めていくだけ。それを見て成瀬君のお母さんは苦笑いしながらも話すことを止めない。
「だけど、女の子は逃げ出しもしなかったし、自分で自分の命を絶つなんてこともしなかった。それはきっと『不幸』の先にあるのが『幸せ』だとわかっていたからよ。」
新しく天ぷらを揚げる為に、席を立つ。どうやらお話はここまでらしい。