恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~

近づく距離、遠ざかる距離


「あった!!」


自転車置き場の隅、256と書かれたステッカーを貼り付けた自転車を見つけて駆け寄る。

鍵穴に鍵をはめ、回す。カチリという音と共にストッパーが外れる。


「・・・後25分くらいか。全力で走らないと間に合わない。」


時計を見る。液晶が9:05を表示している。タイムリミットは、すぐそこまできていた。


スタンドを足で外す。準備が完了する。
『間に合わない』は許されない。絶対に許されない。


「よしっ!!」


足の運動を、最も効率良く車輪の回転数に変換できるように、ギアは全開で。風の抵抗を受けないように前傾姿勢で、ハンドルを握りしめ、ペダルに足をかける。


「・・・」


これ以上喋る必要は無い。これからの数十分は、全てのエネルギーを足に持っていく。何かを喋るのは、間に合って、成瀬君の前に私がいる時だけでいい。


自転車置き場から校庭へ、校庭から校門へと、目に飛び込んでくる風景を一瞬で変化させながら、私は学校を後にした。
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