恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~
「そうです。長い人生の中で、甘い部分もあれば苦い部分もある。それは貴方も知っていますよね?」
「はい。それは勿論です。」
これまで生きてきた17年間、当然楽しいことばかりじゃなかった。
頑張っても上がらない成績にイライラしたり、友達とケンカして気まずくなったり、家族と上手くいかなかったり、辛いこともあった。
「そして、ちょっと悲しいことに、人生は甘い部分よりも、苦い部分の方が多いんです。さっきのように、生クリームが無くなって、苦い部分ばかりを食べなければいけなくなる時がきっとあるでしょう。」
私達は辛い時に、楽しかったことを思い出して、その辛さを乗り越えようとする。
でも、もし辛いことが多すぎて、楽しかったことを思い出しただけでは、辛さが乗り越えられない時、どうすればいいのだろうか?
「そういう時に必要になるのが、『耐える力』と『楽しむ力』なんです。苦くても、我慢する。苦くても、その味を楽しもうとする。そういう力を身に付けることが、きっと『大人になる』ということなのでしょうね。」
「それは・・・私には少し難しいかもしれません。辛いことがあれば、すぐ逃げ出したくなっちゃうし、それを楽しく感じるなんて、とてもできない。」
辛いことを我慢する?辛いことを楽しく思う?
もし、それが大人になるということなら、私が大人になるのは、当分先になりそうな気がして。
「それでいいんですよ。」
でも、マスターはそんな私をあっさりと認めてくれる。
「必要以上に、あせらなくてもいい。急ぐこともないんです。今は、頭の中に入れておくだけでかまいません。」
マスターがテーブルに手を伸ばして、生クリームの無くなったミィの皿を持っていく。
「頭の中に入った、ということで、生クリーム追加してきますね。やっぱりスイーツは美味しそうな顔して食べてもらうのが一番ですから。」
靴と床が合わさって鳴るコツコツという音が、少しずつ、遠くに離れていく。音が完全に消えて、再び、私とミィの2人きりになった。