恋愛喫茶店 ~恋と一緒にスイーツを~
「よかったね、ミィ。生クリームまた持ってきてくれるんだってさ。」
しかめっ面をしながら、オレンジジュースを必死で飲んで、苦さを打ち消そうとしているミィを見て、苦いのを我慢していた事に気付く。
「私には生クリーム無しで、あのケーキを食べきるのは、まだまだ先になりそう。・・・もう、マスターもおかわり自由ならそう言ってくれればいいのに。」
空になったグラスから口を離して、ようやく一息つけたミィは、マスターのちょっとしたイタズラに、怒っていない口調で文句を言っている。
どうやらミィは苦いのが、あまり好みではないみたいだ。
「・・・・・・・?」
突然ミィが、椅子に座ったまま、後ろを振り向く。ミィにつられて私も同じ方向に振り向いたけれど、そこには誰もいなかった。
「どうしたの、ミィ?誰もいないじゃん。」
「いや、何か音が聞こえない?低いモーター音みたいな感じのやつ。」
ミィが見ていた先に、人はいない。でも、物はあった。
誰もいないテーブルの上に置かれた、私とミィのカバンが。
「ねぇ?この音、ケータイのバイブじゃない?私は、ほら、手元にあるから、きっとコトのだと思うんだけど。」
一瞬で椅子から体を離して、カバンのある場所へと駈けていく。
予感がある。それは、ふとした瞬間に失われてしまうような、弱い物では決してなく、確信に似た、強い予感。
カバンを開ける。携帯が底で震えている。同調するかのように、私の心も震えだす。
誰からの着信なんて、もうわかっているし、ディスプレイを見る必要も無かった。
悲しみもなく、怒りもなく、ただ純粋な喜びで震えている心のまま、私は通話ボタンに手をかけた。