死にたがりの魔法使いくんと死神ちゃん
〈魔法使い視点〉
「失礼します」
扉をノックした後、キングの執務室に入る。
「やぁ、ウィッチ。なんだい?ちゃんとやってるか、確認しに来たのかな?」
「それもありますが、こちらの書類をお届けに」
バサリと、積み重なった書類の上に、持ってきた書類を更に積み上げる。
「ああ…。まったく、これじゃ終わる気配ないじゃないか」
「自業自得です。溜めておくから、こうなるんです」
「ウィッチは、厳しいなー」
なんて笑いながら、手元の書類にサインを書くキング。
「はぁっ。今日は、女の子たちに会いに行けないなぁ~」
そう言いながらも、さして残念そうには見えなかった。
「そろそろ、身を固めたらどうですか?」
僕のその言葉に、目を丸くするキング。
「ははっ。君からそんな事を言われるとは思わなかったなぁ」
何がおかしかったのか、ケラケラ笑うキング。
「まだ嫌だよ、そんな結婚なんて」
ひとしきり笑った後、キングはそう言った。まぁ、そう言うと思っていたので、さして気にもしないで、「そうですか」と一言呟いて、キングの部屋から出ていこうとする。
「ねぇ、ウィッチ」
ドアノブに手を掛けた時、キングに呼び止められ、振り返る。
「君が、女の子を気にかけるなんて珍しいね」
唐突すぎて、意味を汲み取るまで時間がかかった。
「……死神さんのことですか?」
「おや、よくわかったね」
ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら、言葉を続けるキング。
「私が女の子を口説いていたって、いつもならスルーしていくのに、今日はどうしたんだい?しかも、私を部屋から追い出すなんて…、よっぽど彼女に近づいてほしくなかったのかい?」
「別に、他意はありませんよ。本当に仕事に戻って頂きたかったので」
表情を崩さず、ただ淡々とキングに話す。
「ふぅん…」とキングは、何か言いたそうにニヤニヤ笑う。
「なんですか」と、少し強い口調で言ってしまう。
「自分の興味のあること以外には、まったく無関心だった君だから、ちょっと珍しいと思ってね」
君の意外な一面を見た気がしたよ、と純粋に笑うキング。
「っ…他に用がなければ、もう行きます」
少し恥ずかしくなり、口早にそう告げてから、執務室を出ていこうとする。
「…最後に、一つだけいいかい?ウィッチ」
「なんですか?」
「他に死神の女の子っているのかな?」
「…………………」
その問いには答えず、今度こそ本当に部屋を出た。