死にたがりの魔法使いくんと死神ちゃん
「キング!」
心配し、叫んだのだが、キングは不敵な笑みを浮かべたまま、悪魔が向かって来るのをじっと見ている。
悪魔が目前にやって来たと思ったら、突然、悪魔の動きが止まった。
「ウ、ウゴ、カナイ…」
悪魔は、動こうとしているのだろうが、ピタリと止まったまま、一ミリも動く気配は、ない。
「暫く、そこで止まっててくれるかな?後から、こわーい人が氷づけにしてくれるだろうから」
ね?なんて、可愛らしく首を傾げてキングは言う。
こわーい人は、言わずもがな魔法使いのことだろう。
「さて、城の方まで急ごうか。途中まで一緒に行こう」
くるっと振り返り、キングは私たちを促す。
「魔王様、大丈夫?」
俯いたまま動かない魔王の背にそっと手を置く。魔王は、大丈夫だ、とこくりと頷く。
「じゃ、行こうか」
「ええ」
魔王を真ん中にして、3人横に並んで歩く。
「…キング。さっき、あの悪魔に何をしたの?」
突然、動きの止まった悪魔を思い出し、キングに訊ねる。あの場で何かしたとなれば、キングしか考えられなかったから。
「ああ、あれ?昔、ウィッチから教わった『相手の動きを止める魔法』だよ」
「魔法…?」
普通の人間が魔法を使えるなんて聞いたことがない。
私が訝しげにしていたのに気付いたのか、キングが話しを続ける。
「あの魔法はね、特別なんだよ。本来は、別の目的に使うもの。それが何なのかは教えられないけどね」
「……そう」
本来の目的とは、何なのか気になったが、訊ねたところで教えてくれそうもないので、黙っておく。
暫く3人無言で歩いていると、ようやく城が目前に現れた。
「王!!」
何人かの兵士がキングに気付き、駆けて来る。
「当初の予定より早まった。…よりにもよって、祭りの日にとは思わなかったよ」
はぁ。とため息をつくキング。
キングの言葉に、何か違和感を覚える。まるで、悪魔たちが来ることがわかっていたかのような…。
魔法使いも、キングも、後で、説明してくれるというのだから、今は余計な詮索をしないでおこう。
「お前は、部隊に町に向かえと伝えてくれ。国民の安全が第一だ。城へ避難するよう、案内を」
「承知致しました」
「君は、この子たちと一緒に城の中へ。頼んだよ」
「はいっ、承知致しました」
テキパキと兵士たちに指示を出していくキング。この時ばかりは、いつものキングとは違い、まさにこの世界を治めている者の顔つきだった。
「死神ちゃん、」
「え!?」
突然、キングに話しを振られ、驚く。
「魔王様のこと、よろしく頼んだよ」
ニッと笑った後、ふと真面目な顔になるキング。ぐっと、私に顔を寄せてくる。
「魔王様は、魔界の大臣に命を狙われているんだ。城の中ならば大丈夫だと思うが、念のため、君には伝えておこうと思ってね…」
魔王様には、聞こえないように私の耳元で話すキング。
「わ、わかったわ。私に任せて。魔王様は、私が守るわ」
「頼もしいね。それじゃ、私は行くよ」
ふっと息だけで笑った後、キングは兵士たちを引き連れて、来た道を戻って行った。