死にたがりの魔法使いくんと死神ちゃん
「姿を見せなさい!」
そう叫んだ瞬間、扉が開いた。
「!」
意識を扉の方に集中させる。
すると、扉から顔を出したのは、背中から翼を生やした天使だった。
「下界のピンチだって言うじゃないですかぁ。助っ人天使さんですぅ」
やけに間延びした喋り方をする女天使だ。
「アナタ…?」
「魔王様をー、お助けに来ましたぁ」
そう言って、私たちに近付いてくる天使。
「死神さん、貴女のぉ、お仕事はここまでですぅ。さ、魔王様、こちらにぃ」
手を魔王様に伸ばす天使。だが私は、魔王様を引き寄せたまま、天使を擬視する。
「……死神?」
私のこの行動に不思議そうな顔をする魔王。私は、魔王を見下ろし笑いかけた後、天使を睨み付ける。
「ちょっとぉ、死神さん、何なんですかぁ?」
「外の兵士はどうしたの?」
城の兵士が、ましてやこの状況下で、やすやすと見ず知らずの天使を、この部屋に通す訳がない。
ましてや、先程の兵士の様子からすると、誰も中に入れるなとキングから言われたはずだ。扉の外で待機をしていたのも、侵入者が部屋に来ないか見張る為だろう。
「兵士は…どうしたの?」
もう一度、今度はさっきより低い声で問う。
「それはぁ~………私が眠らしちゃったよぉぉおーーー!!!」
突然、私たちに否、魔王に向かって剣を振り下げてきた天使。
カキンッ
「…くっ」
魔王を後ろにやり、私は鎌で天使の剣を受け止める。
「……ちっ」
天使は舌打ちをし、後ろに一歩跳び去る。
「ああーあ…。ほんと死神っていうのも、ほんと使い物にならないのねぇ」
「なんですって!?」
「魔王を死神リストに載せたっていうのに、まったく殺す気配がないんだもーん」
その言葉に、ハッとする。
「アナタね!天界の裏切り者…、堕天使は!!」
ピンポーンと、右手の人差し指を立てる堕天使。
その後、真っ白だった翼が、どんどん燻んでいき、灰色になった。
「なんてことを…」
「えぇー。それはぁ~」
「堕天使よ、ここからはワシがやる」
堕天使が、何か言おうとした時、後ろから一人の老人が現れた。
「!………だ、大臣」
その姿を見た魔王が、驚いたように呟く。
「これは、これは、魔王サマ。ご機嫌いかがですかな?」
はっはっはっはっ。と笑う大臣。
「…っ!」
魔王は、全てを悟ったのか、大臣を睨み付ける。
「此度のこと、すべてお主がやったのだな!?」
「ええ…。そうですとも」
「おのれ…、お主…っ」
魔王は怒りで、プルプルと震えている。
「そう怒らないで下さい。そんな小さな貴女に何ができます?…はじめから、ワシが魔王になっていれば、下界など魔界とひとつにできたものを…」
「黙れ!」
空気が重々しくなり、徐々に黒い霧のようなものが渦巻いていく。
「あ、あのぅ。大臣…」
この空気に何か感じ取ったのか、堕天使が大臣に近寄る。
「お前は、城の兵士どもの相手をしてこい。この騒ぎに何人かが、此方に向かってきておる」
「了解で~す」
スタスタとこの場を去って行く、堕天使。
「ちょっと…!」
堕天使を追いかけようと、一歩足を踏み出した時、ヒュッと小さなナイフが、足元に突き刺さった。
「おっと、死神。貴女も、もう無事では済ませませんよ」
これが、数々の悪行を成してきた者の目なのだろうか…。ゾッとした。