死にたがりの魔法使いくんと死神ちゃん
…数日後。
私は全速力で、草原を駆けていた。
「待ってくださーい!」
「待たない!」
後ろから魔法使いが追いかけてくる。
「僕を…」
「殺さない!」
魔法使いがすべてを言い終わる前にピシャリといい放つ。
「エリスト=ウィッチ=クラフ!付いてこ来ないで!」
「あの…フルネームで言うの面倒臭くありません?」
魔法使いのその言葉に2人して立ち止まる。
「普通に、エリストでいいですから、ね?ユリア=デス=ノーベさん」
わざわざ私のフルネームを言う魔法使い、もといエリスト。
「ねぇ、アナタそれわざと?」
「死神さんが、僕のことを普通に名前で呼んでくれたら、僕も普通に呼びますよ」
意地の悪い笑みを浮かべて、ゆっくり私の方に近付いてくる。
「…うっ」
私は思わず一歩後ずさる。
「な、なんかズルくない?」
「何がですか?」
「いや、その…」
ゴニョゴニョとだんだん言葉が弱くなっていく。
今まで魔法使いと呼んでいたから、なんだか慣れなくて名前で呼ぶのが少しだけ照れ臭い。
「さっ。呼んでみて下さい」
いつの間にか立ち止まっていた私の目の前には魔法使いがいた。相変わらずいつもの笑みを浮かべている。
もう、堪忍した方が良さそうだ。いつまでたっても埒があかない。
…いや、埒があかないのはいつもの攻防戦と変わらないけど。
はぁ。とひとつ溜め息を吐く。
覚悟を決める。
「…エリスト」
「?」
声が小さくて聞こえないとでも言うかのように、にこっと首を傾げる魔法使い。
「あーもー!エリスト、いい加減にして!」
半ば叫ぶように言った後、私はぐるっと体を反転させ、エリストに背を向ける。
「…………」
なにも言ってこないエリスト。背を向けているから、彼がどんな顔をしているのかもわからない。