死神の羨望
「よし、外にいる時はこれを着ていろ。万年風邪っぴきみたいなお前には、これぐらいの防寒が必要だ」
身だしなみを整える五十鈴の指先。襟から胸元にあたり、この心音が気取られないことを願った。
「ありがとう、ございま、す」
お礼も、早鳴る心音のせいで上手く舌が回らない。
それでも五十鈴は満足げに頷き、そういえば、と流れた話を引き戻す。
「名前、教えてくれないか。次は、忘れないから」
「……」
黙したのは、彼女の頭に“覚えられたくない”と思ったからだ。
こんな、自分を――
いずれは、“人殺しの死神”となる汚名(自分)を、彼女に覚えてほしくなどないのに。