死神の羨望
命の尊さを知る者としては――死神という役職に就いた川堀(かわぼり)という男は、よりシビアに、命の有り難みを知っていることだろう。
よりいっそう、嫌悪する。
生きたいと嘆く者の傍らで、死にたいフリをする奴らを、嫌悪する。
自殺するならば、死ね。
そういった言葉を、今まで何百と思ってきたことか。自殺の真似事を見るのは、もうこりごりであった。
ただでさえ、人間の事切れに立ち会う毎日が続き、悲哀と疲労で擦りきれた精神に捩じ込むような憤りがあるのだ。
川堀の精神は、頑強ではなかった。
だからこそ、自分は壊れていると川堀は自覚している。
生きた人間と関わるな。死神の戒めでもあるが、これを破ったさい、川堀は思った。
『何故、今までやらなかったのだろう』
冬の海で、自分勝手に我が子と無理心中をし、結果的には生き残った母親の首を絞めた後に思った。