死神の羨望
呼び止めは、不意打ちと違いなかった。
彼女にしてみれば、特に意識せず、職場仲間に話しかけたにせよ、この時の川堀は、自身でも驚くほどに、心臓を早めさせた。
「話がある。時間、いいか?」
長いまつげのある右目を見開き、左目を固く瞑る女性。
低い声ではないのに、聞くものを射るような鋭い声質は、男のそれとは違う威圧感があった。
「ぁ……」
だからといっても、その彼女を知る川堀は、威圧されたわけではない。
動揺。
「い、すず……」
知ってはいても、まさか彼女の名を呼ぶときが来ようとは思ってもみなかった。
川堀の憧れ。
あなたのようになりたいと思い、同時に――羨望するほどに遠い存在。