死神の羨望
「これを着ろ」
そう声をかけられなければ、うっかりと泣いてしまうところだった。
はっとし、見れば、五十鈴は持っていたコートを差し出してくる。
茶系で冬用の分厚いコートは、温かさを保証してくれることだろう。大きさからして、細身の彼女が着るには無理があり、一連の流れを踏まえれば。
「私に、ですか?」
恐々と聞いてしまった。
聞く声が震える。
『そうだ』と分かっているから、堪えた涙がまた違った意味で流れそう。
「暖かくして、自分を労れ。サイズはこれで大丈夫だと思うが、どうだ?」
着てくれないか、と渡された。
渡されたコートを抱き締めたい気持ちにもなるが、五十鈴の手前、彼女が言う通りに袖を通す。
少々大きいような気もするが、許容範囲。襟元を正そうとして、彼女の指先が伸びてきた。