ある冬の日
自転車を漕ぎ始めてしばらくはなんだか近所の目が気になる。
いつもそう。
顔見知りの家を通りすぎる瞬間、その人たちがこんな時間に制服姿でうろうろしてるうちを見たらどう思うだろう、またママの評判悪くなっちゃうのかな。
とかいろいろ考えんの。
うちのせいでママの評判悪くなるのだけはほんとに嫌、なのに、結局今日もこうして学校にも行かずふらふらしてんの、うち。
ほんとバカみたい。
やっと自宅からの距離が遠くなって、ちょっとだけ肩の荷がおりた感じ。
何気に気分も上がってきた。
早朝は寒かったのに、今は自転車を漕いでいても太陽の光が温かいと感じる。いや、ただ単に自転車を漕いでるからこそ『こんな空気の中に居ても温かいんだ』とうちの脳が勝手に勘違いしてるだけなのかも。
ま、いいや。今はそんな事どうでもいい。
そのまましばらくは頭の中を空っぽにして、ただひたすらに自転車を漕ぎ続ける。
うん、いい感じ。
その時なんとなく、うちは自転車を漕ぎながら言葉にならない言葉と感情を、大声に乗せそのまますべて吐き出した。